1994年点検評価(抜粋)

自己評価 - 課題と将来構想 -
第三者による評価
「スラブ研究センターを研究する」
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川端香男里(東京大 学)
西村可明 (一橋 大学)

第 三者による評価: 西村可明 (一橋大学)


 北海道大学スラブ研究センターは、とくに1990年に全国共同利用施設として改組されて以降、大いなる発展を遂げ、わが国におけるスラブ地域総合研究の センターとしての地歩を築いてきた。同研究センターは、五大研究部門と情報資料部からなる研究体制を確立し、わが国におけるスラブ研究のトップレベルの人 材を擁し、夏冬のシンポジウムをはじめ多数の研究会を開催し、またスタッフを核とする共同研究を多数組織するなど、わが国における研究拠点としての実質を すでに獲得しているといえる。それはまたスラブ地域の学際的総合研究のコアとなりつつあり、学際的交流の場として貴重な役割を果たしている。しかもこれが 国際交流の場ともなっている点は、特筆すべき特徴である。またスラブ関連資料を集積し、情報サービスのセンターとしての形を整えつつある。さらに研究成果 は、雑誌や論文集の発行を通じて、またマスコミでのスタッフ見解発表などを通じて、単に研究者に対してだけでなく、広く国民に対して還元する努力が行われ ており、それと同時に共同研究に実業界をはじめ民間の参加を得るなど、センターと国民との間の交流にも配慮がなされている。こうして、同研究センターは、 スラブ地域の学際的研究において他に類のない恒常的中核となっており、全国共同利用施設に相応しい実体を獲得しつつあると思われる。
 同研究センターがここまで発展するには、スタッフ・職員の大変な努力、全学の支持、さらには文部省の理解があったのであり、同センターのサービスと便宜 を常日頃受けている者として、関係者に感謝する次第である。
 それと同時に、センターの利用者として、センターの今後の発展のために、改善を希望する点が皆無というわけではない。以下では、研究体制と研究支援体制 の問題に焦点を当てて、若干述べさせていただくことにする。


 a.  研究体制

 1.  同センターはスラブ地域の学際的総合研究を行う機関であるが、その際各部門の位置付けが必ずしも明確でない。総合研究にはスタッフが単に個人レ ベルで参加するものなのか、それとも部門を単位として参加していくのかという問題がある。このような疑問が生じるのは、現在五大部門が設置されているが、 部門の専門分野と当該部門所属スタッフの専門分野とが必ずしも照応していない場合があるからである。各部門はそれぞれの存在意義があって設置されているわ けで、その特徴を積極的に活かす形で研究を組織しつつ、さらにそれを総合研究に繋げていく道を模索していくことが望ましい。ただし部門の性格や課題を余り に厳しく狭く限定して考えると、人材不足と定員充足率低下の問題に直面することにもなるから、これは長期的問題としてのみ指摘できることである。
 2.  同センターにおいて組織されている研究会や研究プロジェクトを概観すると、政治、経済、歴史、文化など分野別の研究が大勢を占めている。このこ とは、個別分野の研究が総合的研究のための必要前提条件である以上、当然であるが、同時に学際的総合研究は発展の初期段階にあることを示している。必ずし も全分野を包摂する必要はないが、いくつかの分野にまたがる総合研究を実質的に発展させていくならば、同センターの社会的役割は一層高度なものになると考 えられる。その際、同センターが北海道に位置していることを考慮すると、テーマの一つとして、ロシア極東地域と北海道との交流に関わる総合研究の可能性を 検討してみることも価値があると思われる。
 学際的総合研究のための具体的プロジェクトを組織する場合、特定分野に専門化した研究者が他の分野について、あるいは他の分野と自己との関連について 知っている必要があるが、学問的に自己の専門に深く入っていく必要のある若い研究者にとっては、自らその組織者として中心的役割を果たすことは必ずしも容 易ではないと推測される。またそのような共同研究のために相応しいスタッフの年齢構成を作り出すことは事実上不可能である。したがってそのような学際的共 同研究を組織するために、共同研究員などの外部協力者の参加を得て、何等かの委員会を設置するなど工夫をするのも一案ではないかと考えられる。
 3.  同センターの研究活動の際だった特色は、国際性にあり、これを保証するうえで外国人客員研究員が大きな役割を果たしている。しかしながらこれは 現在大きな障害に直面しているように見える。というのは招聘期間が10か月と固定的であり、柔軟性に欠けているからである。最近では、欧米だけでなくスラ ブ地域でも、優秀で活発な研究を行っている者は、まさにそれゆえに長期の海外滞在が不可能になってきているのが現実であり、10か月という期間に固執する と、共同研究の発展のために真に必要な研究者は招待できない場合もでてくる。それは税金の無駄使いにつながる。したがってやむを得ない場合には、10か月 を2ないし3期間に分割できるように工夫する必要がある。外国人客員研究員制度の中には、その様な分割が不可能ではないカテゴリーも存在するようであり、 同センターの外国人客員研究員についても柔軟な運用ができるように、関係者の前向きな努力を要望する次第である。


 b.  研究支援体制

 1.  これだけ多数のスタッフをもち、沢山の研究プロジェクトと研究会を組織し、年間5千万円規模の図書を購入し、全国共同利用施設としてサービスを 提供しようとするセンターの事務職員数が、図書掛りを含めて3名だというのは信じられないことである。これは加重な負担が事務職員、助手、さらには研究ス タッフにかかっていることを意味するだけでなく、全国共同利用施設としての業務を滞りなく行うことが困難であるということをも意味する。たとえばスラブ関 係図書や資料が同センターに集積されつつあるが、その受入れ業務は職員の努力にもかかわらず滞っており、未整理本が累積している。これは全国利用者にとっ てまことに不便である。また現在センターは「重点領域研究」に応募している ーこれは研究センターとして当然至極のことである ーが、この状況ではそのた めの膨大な事務量を事務部門だけで引き受けるのは至難の業であり、結局研究スタッフがその相当部分を引き受けざるを得ず、余分な負担を強いられることにな り、研究所のスタッフがサバティカルを必要とする、というような異常事態になり兼ねない。同センターの事務体制は異常事態直前であるという危機意識を持っ て、全学的な解決の努力が払われることを要請したい。なお図書業務のために必要とされる臨時用人雇用期間を6か月に限定し、何か特別に緩和を許可するなど というのは無意味であり、また北海道大学事務局の一地方的現象ではないかと思われる。定員削減の折から、また複雑な社会状況のなかで当該地域の特殊な雇用 状況を考慮しなければならず、臨時用人雇用についても慎重さが必要になっているということは確かであり、教官側も襟を正してこの問題に対応しなければなら ないが、事務局側は同センターにおける研究の発展に良いことを積極的前向きに取り組まれることを要望する次第である。
 2.  全国共同利用のスラブ研究センターが北海道大学内にあり、東京や関西に無いということは、とくに関西以西在住者にとって共同研究や研究会の参加 のために時間と費用が余計にかかることを意味する。同センターで開催される研究会が多数の参加者と活発な議論を得て充実したものになっている背景には、外 部研究者の個人的犠牲に負うところが無いわけではない。今後スラブ地域の学際的総合研究をセンターを核に発展させていくためには、研究会や研究打ち合わせ のための旅費の抜本的増額が不可欠であり、この問題に全学的に取り組まれることが望まれる。
 3.  多数の外国人研究員を生活習慣の異なる様々な国から受け入れて、その世話をするという仕事は、雑用のように見えるが、研究・生活条件の確保とい う観点から見て極めて重要である。外国語の分かる人でないと出来ないため、教官がそれを引き受けることになり、研究時間が犠牲にされることになる。これは どこの国立大学でも生じている問題であろうが、このような状態が続くようでは、世界のスラブ研究の中核として同センターが発展していくことは難しいと思わ れるし、外国人受入れの現状を維持することも容易でないと推測される。こうした事態を克服するためには、国際学術交流室のような部署を設けて、外国人の受 け入れ、外国語出版などの業務を集中し、そのノウハウを蓄積することも一案ではないかと考えられる。国際化の時代に相応しく、そのために助手ポストをせめ て1つでも付けることは出来ないのであろうか。
 4.  「自己評価」の中で、またここで述べられたことの多くは、全国国立大学が多かれ少なかれ共通に当面している問題であり、各大学が前向きに取り組 む中で、文部省の理解と協力を得て、解決に向けて前進が見られる点も無いわけではない。同センターは共同研究員を全国の大学にもっているのだから、その協 力を得て、各大学でどの様な解決の努力が行われているのか調査し、先進的例に学ぶことも有益ではないかと思われる。