体制移行期ロシアの食料市場 - 需要と輸入の分析を中心として-

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  1. [山村97]を参照。この著作全体がロシア農村の生産者の問題を扱ったものといえるが、特に第7章が本論文と関連する部分になっている。
  2. 肉については、家計調査データによる消費量だけが1997年になって突然、増大に転じ、しかもその伸び率は8%以上になっている。これは、家計調査の方法がこの年から大幅に変更されたことによる見かけ上の変化という可能性がある。本論文では家計調査のデータを多用しているので、この点について多少説明をしておく必要があるだろう。 ソ連では1952年から住民の収入・支出構造を調べるために家計調査が毎年実施されてきた。サンプルの抽出方法は「産業部門別抽出法」という独自の方法が適用され、農業(コルホーズ員家族)、各産業部門の労働者・従業員数に比例したサンプル数を抽出して調査を行った。サンプル数は毎年固定され、たとえば1969〜1988年の間は各四半期ごとに33000家族が調査対象となった。こうした産業部門別抽出法は、ごく最近まで継続されたが、1995年秋に国家統計委員会はサンプル抽出法の変更の決定を行い、「地域原則」による抽出法への移行がはかられることになる。細かい点は省略するが、1994年のミクロ・センサス(全住民の5%)のデータを使ってサンプル抽出用の母集団を形成し、2段階無作為抽出法によって80地域から49000家族をサンプルとして抽出するという方法がとられたのである。ただし、1996年は段階的にサンプル抽出を地域原則に移行する措置がとられたために、従来の抽出法によるサンプルと新しい抽出法によるサンプルが混在するという変則的な状況となった。1997年には完全に地域原則による抽出法へと移行したとされる。
  3. [金田] 236-237頁に、 D.スクノーバーなどの研究者たちによる推計についての簡単なサーベイがある。
  4. [瀬尾] では、中央数理経済研究所の資料(1989年ロシア共和国の7所得階層別・家計調査集計データ)を入手し、それを使って計算を試みている(65-69頁)。ただし、使った資料の集計度が高く(ロシア共和国全体の集計データで地域別のデータにはなっていない)個々の品目についての需要関数は計測困難となっている。
  5. 1995年調査の10収入階級別集計が[Mo96-1]、1996年の四半期別の集計結果が[Mo96-2]、[Mo96-3]、[Mo96-3]にまとめられている(第4四半期を除く)。注1で述べたように1995年の調査は旧来の「産業部門別抽出法」に基づいているが、1996年の調査は段階的にサンプル抽出を「地域原則」に移行する措置がとられたために新旧タイプのサンプルが混在している。そのため、今回は1995年の調査データだけを用いて計測することにした。なお、計測に必要な価格データが全ての地域について入手できなかったので、ここでは推計は27連邦構成主体のデータに基いて行なっている。
  6. これについては、[山村90a] 114-140頁、[山村90b] 161-165頁を参照。ソ連に関しては、供給に問題があったので、需給ギャップ(不足)が大きく、実際の消費量は需要量ほど「過大」ではなかった。これに比べ、たとえば東中欧諸国では、ソ連よりも生産・供給が発展していたので、需要だけでなく実際の消費量の方の「過大」度もより大きなものになっていた。
  7. 同じ旧社会主義国でも「残差」に大きなばらつきが見られる。これは、一つには、購買力平価によるGDP値の誤差が大きいからだと思われる。つまり、ルーマニア、ブルガリア、ロシアはGDP値が過大気味に評価され、逆にバルト諸国やスロバキアは過小評価気味になっている可能性もある。もう一つの解釈は、社会主義時代の需給ギャップの大きさが関連しているというものである。東中欧諸国に比べてロシアでは、畜産物の生産力・供給力が十分でなく、需要が大きくても消費量がそれに見合って増大しなかったという状況があった。こうした違いが現在でもなお残存していて、東中欧諸国では消費量は依然として高めになっているのに対し、ロシアのような国では消費水準はそれほど高めにならない。
  8. 中・東欧諸国とEU諸国との食料消費パターンの収斂の問題を論じたものとして[El98]がある。カロリー・ベースでの消費水準と消費構造を分析し、国や品目によってばらつきがあるが全体として収斂が進みつつあるという結論を出している。
  9. このこと裏付ける例として、ロシア産に見せかけた包装の輸入ソーセージが市場に出回るという現象があげられる。「一部の輸入ソーセージは、『ドクトルスカヤ』、『マロチュナヤ』、『リュビーテリスカヤ』、『ルースカヤ』といったロシアで最もおなじみの名前がつけられて売られている。包装はロシア語で書かれており、消費者には国産品なのか輸入品なのか全く区別できないことさえある。こうした詐欺まがいのことがされる理由は明瞭である。つまりロシアの消費者は、最近では、国産品の方をずっと好むようになってきたからである。消費者保護団体『ガランチア』の副会長アレクサンドル・マイオール氏の話によれば、輸入品をロシアに持ち込んだ後に包装を取り替えるといったことも頻繁になされている。いくつかの工場にはそのための専門の作業場があって、どこで製造されたかわからないソーセージに、先ほどあげたロシア風の名前をつけるだけでなく、その工場の製造印まで押されているという。」(Itogi , July 06, 1998)
  10. Finansovye Izvestiia, March 17, 1998
  11. 鶏肉の消費者価格は、牛肉のそれに比べ4割以上も高かった。これは牛肉に対する価格補助金の率が鶏肉に比べてずっと大きかったためで、生産コスト的には鶏肉の方が逆に4割ほど安かった([山村90a] 117頁を参照)。
  12. [野辺]74-75頁に、バターなどの輸入品の品質、ロシア人の嗜好、内外価格差の関係が詳しく論じられている。
  13. ロシアの経済学者Vladimir Popovは、自国通貨の過小評価こそが、アジアなどの新興経済諸国が高度成長を達成する際に重要な役割を担ったのであり、ロシアのような移行経済諸国にとっても必要な成長戦略の一つであると主張している。そして、「強いルーブル」をめざすロシア政府と中央銀行の政策のおかげで、1996年頃までにルーブルの交換レートは購買力平価に比べて70%ぐらい(これは「オランダ病」に悩む産油国並みの水準である)にまで上昇してしまったとして、為替政策の転換を求めている([Popov98] 429-433)。無論、こうした主張に反対する議論も存在する。たとえば Anders Aslund は、ルーブルの「過大評価」説について、もしそうならばロシアの貿易収支が黒字を続けるはずがないとして斥けている。また、購買力平価に基づく計算についても、ロシアにおける価格地域格差を考慮していないもので信頼できず、ルーブルの引下げの根拠にはならないと論じている([Aslund98] 310-311)。
  14. Ukaz Prezidenta Rosiiskoi Federatsii ot 30 noiabria 1995 g. No. 1199 , "O tamozhennykh l'gotakh."


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