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第一回百瀬フェロー決まる

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北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター百瀬フェローシップ
第1回百瀬フェロー決まる


百瀬宏・津田塾大学名誉教授のご寄付に基づき設立された百瀬基金による、第1回百瀬フェローがこの度、決定しました。百瀬フェローシップは、スラブ・ユーラシア地域を研究するテニュアを目指しているポスドクの方を対象とした研究奨励制度ですが、このたびは4名の応募がありました。研究業績も一定の水準を満たし、研究計画もまとまった応募者が多いなか、センターで慎重に審議した結果、貞包和寛さんに2021年10月より、百瀬フェローの称号が与えられます。本制度が、若手研究者のキャリアップ支援として学界に定着していくことを願っています。

 

 

選考講評


採択者:貞包 和寛(さだかね・かずひろ)
研究課題名:戦間期ポーランドの言語政策に関する基盤研究 いわゆる「クレスィ諸法」を中心として


貞包氏は社会言語学を専門とし、特にポーランドの少数話者諸言語を分析対象として業績を出されています。特に2020年に刊行された著書『言語を仕分けるのは誰か ポーランドの言語政策とマイノリティ』が審査過程で評価されました。本研究課題で貞包氏は視点を言語政策史に向け、社会言語学的な分析が不十分であった第二共和国時代のポーランド東部国境地域の言語を巡る諸法を、当時の国内外の広い文脈から多角的に分析します。優れた着目点かつ具体的な方法論で進められる貞包氏の新たな挑戦が、ポーランド社会言語学および隣接する学問領域に画期的な成果と展開をもたらすことが期待されます。

 

 

採用にあたっての抱負

 

このたび、SRC百瀬フェローシップに採用された貞包和寛です。本フェローシップは今年度より新たに設立されたものと側聞しております。第1回目の採用者ということでとても光栄であり、同時に身が引き締まる思いです。今年10月よりフェローとして活動いたします。センターの皆様とお会いする機会を楽しみにしています。

 

私の専門はポーランドの言語政策です。博士論文ではポーランド国内のマイノリティ(民族的少数者)の言語を取り上げ、これらの言語が政策上どのように扱われているかをまとめました。幸いにも機会に恵まれまして、博士論文を加筆・修正した単著を昨年に出版することができました(『言語を仕分けるのは誰か ポーランドの言語政策とマイノリティ』明石書店、2020年)。拙著で恐縮ではありますが、お手にとって頂ければ幸いです。

 

今回の百瀬フェローシップでの研究は、私のこれまでの研究をより深化させるために行われるものです。これまで私は現代ポーランドの問題を研究してきましたが、今回の百瀬フェローシップでは戦間期ポーランドの言語政策を分析したいと考えています。戦間期ポーランドは国民の3割が非ポーランド系によって占められており、当時の欧州で多民族性・多言語性が最も高い国家でした。一方、123年間の三国分割の後に成立した新国家内はポーランド民族主義も強い政治勢力として存在していました。こうした相反する事情が共存するなか実施された言語政策は、社会言語学的に興味深い事例であることは言うまでもありません。そのなかで本研究は、1924年に成立した三つの法律、いわゆる「クレスィ諸法 ustawy kresowe」に注目します。クレスィ諸法はウクライナ系、ベラルーシ系が多かった当時の東部地域を対象とした法律です。戦間期ポーランドではポーランド語が唯一の「国家語 język państwowy」として指定されていましたが、クレスィ諸法で定められた地域では、行政や立法の場においてウクライナ語、ベラルーシ語、リトアニア語の使用が部分的に許可されていました。本研究ではこれらクレスィ諸法を分析し、戦間期ポーランドの言語政策の狙いを明らかにしていきます。

 

残念ながら、戦間期ポーランドの言語政策に専門的関心を持つ者はポーランド国内でも少なく、法律分析に基づく実証的研究が求められます。微力ながら、本研究がそうした研究上の要請に応えられるものとなるよう努める所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

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