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第5回百瀬フェロー決まる
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター百瀬フェローシップ
第5回百瀬フェロー決まる
百瀬宏・津田塾大学名誉教授のご寄付に基づき設立された百瀬基金による、第5回百瀬フェローがこの度、決定しました。百瀬フェローシップは、スラブ・ユーラシア地域を研究するテニュアを目指しているポスドクの方を対象とした研究奨励制度です。このたびはセンターで慎重に審議した結果、内田州さんに2025年10月より、百瀬フェローの称号が与えられることになりました。ひきつづき、多くの方々の応募をお待ちしています。
選考講評
採択者:内田州(うちだ・しゅう)
研究課題名:ウクライナ・モルドバ・ジョージアの非承認国家問題がEU加盟プロセスに及ぼす影響
内田州氏の研究は、ウクライナ、モルドバ、ジョージアが抱える分離独立派地域(非承認国家)に係る問題がEU加盟プロセスに影響を与えるのかを考察することを目的としている。ロシアは非承認国家を積極的に支援することで旧ソ連諸国のEU及びNATO加盟阻止しようとしているとの先行研究が複数存在し、それがゆえに同諸国のEU・NATO加盟は至難だとする言説も見られるが、この見方は2025年時点でも正しいといえるのということを、内田氏は問おうとしている。この問題を解明するために、内田氏は、各国の公開一次資料調査、国際機関資料調査を行い、またジョージア、モルドバでの聞き取り調査を実施するとしている。内田氏はこれまで主として英語を駆使して高いレベルの研究業績を挙げてきており、その延長線上でさらに研究を前進させることが可能だと評価された。優れた成果が刊行されることが期待される。
採用にあたっての抱負
この度、第五回百瀬フェローに採用頂きました内田州と申します。この度は採用頂き、大変光栄に存じます。
まず、本フェローシップを創設してくださった百瀬宏先生に心より御礼申し上げます。また、審査してくださった先生方、実務面でお支え頂いている事務所の方々を含め、全関係者に深謝致します。
百瀬先生は、高著『小国』の「岩波現代文庫版あとがき」で、「世界各地の問題を「憂慮」する際に、もっとも気をつけなければならないのは、意図せずして「高みの見物」という立ち位置をとってしまわないこと」と記しておられます。
これはまさに、南コーカサスの小国ジョージアやバルト三国のラトビアに実際に住み、南コーカサス諸国、バルト三国、ウクライナ、モルドバといった国々を研究対象としつつ、これらの国々がクレムリン(ロシア)のみならず、ブリュッセル(EU)やワシントン(米国)とどのような相互関係を構築しているかに大きな関心を払ってきた者として、あくまでも研究対象と適切な距離をとりつつも、一方で、武力紛争に直面する人々に寄り添い、国際社会の一市民としての当事者意識を忘れないように心掛けてきた自身の研究姿勢に、新たな背骨を与えてくださる金言です。
今回採択頂いた研究テーマは「ウクライナ・モルドバ・ジョージアの非承認国家問題がEU加盟プロセスに及ぼす影響」であり、当然、旧ソ連諸国・ロシア関係が鍵となる訳ですが、唯一のスーパーパワーである米国、そしてEUの関与も念頭におき、EU加盟候補国3カ国、クレムリン、ブリュッセル、ワシントン間の力学を、政策立案者へのインタビュー等を通じて考察したいと考えております。
ロシアは非承認国家を積極的に支援することで旧ソ連諸国のEU及びNATO加盟を阻止しようとしているとの先行研究が複数存在しておりますが、この言説は、2025年時点でも正しいといえるのでしょうか。この点を考察することで期待される成果は、1)EU側が、EU加盟を希望している旧ソ連諸国の分離独立派地域(非承認国家)とEU加盟の相関をどのように考えているかが明らかになり、EU加盟の条件が絞られ明確になる、2)上記の先行研究が正であるならば、そのロシアの意図は現在でもEUに対して有効なのかを指摘可能となるかと存じます。
以上の点を明らかにすべく、2025年10月から1年間、御指導御鞭撻賜りたく、何卒宜しくお願い申し上げます。