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2022年 6月 2日

UBRJ実社会共創セミナー(名古屋外国語大学等共催)「ウクライナ戦争を考える:世界や日本はどう向き合うべきか」開催記

 

 2022年5月28日(土)、名古屋外国語大学名駅サテライトキャンパスME11教室にて、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター境界研究ユニット(UBRJ)、名古屋外国語大学世界共生学部、名古屋外国語大学ワールドリベラルアーツセンター(WLAC)、NPO法人国境地域研究センター(JCBS)などの共催で、UBRJセミナー「ウクライナ戦争を考える:世界や日本はどう向き合うべきか」を開催した。今般のウクライナ戦争は、毎日のようにメディアで報じられていることもあり、土曜日の午後という時間帯にもかかわらず、対面(名外大・NPO関係者のみ)・オンライン合わせて146人の参加があった。

 黒岩幸子(岩手県立大学)は、「なぜロシアは侵攻したのか」ということについて、ロジカルかつエモーショナルに論じた。よく言われるようなNATO東方拡大の阻止というのは、ロシアがウクライナに侵攻する理由にはなり得ず、他方でロシアは「脱ナチ化」については真剣に考えている。ロシアの大祖国戦争と紐付けられた国民統合理念によれば、ウクライナはロシアと「一体」であり離反は許されない。それでも、人命軽視で戦うロシアとそれに真っ向から応戦するウクライナ、軍事的な支援はさらなる死者を生むので避けるべき、とのことばが印象的だった。

 岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)の報告は、ウクライナ戦争後の国際秩序の構想と、それに対して我々が何を成すべきか、という点について鋭く衝くものだった。岩下は、ソ連解体からウクライナ戦争開始前までを「間氷期」と表現し、ウクライナ戦争の開始と共に、「可変的な二極化」を特徴とする第二次冷戦に突入するとしている。そこで我々が何を成すべきか、というと、それは、第一次冷戦時代にみられたような「友」と「敵」の二分法に抗して、多極的な繋がりと対立の網を解きほぐす視座をもつことが肝要だという。そして、アカデミズムによる「腫れ物には触らない」風潮を戒めた。ある種の「人間不在」の時代だからこそ、ローカルの声を聞くべきだというのは、首肯できる。

 地田徹朗(名古屋外国語大学)の報告は、ウクライナ戦争の中央アジア地域を中心とする旧ソ連諸国への影響について論じるものだった。中央アジア諸国は、攻撃的なロシアに忖度をしつつも、戦争では中立を保ち、内心では戦争に迷惑がっているという点では共通しているものの、ロシアとの距離の取り方は各国ごとに微妙にニュアンスが異なるということを指摘した。今後、ロシアを軸とする地域協力は難しくなり、ロシアが旧ソ連地域全体での威信を維持するためには大勝利が条件であるものの、中央アジア諸国はそれでも移民労働者の受け入れ先や安全保障面での重要なパートナーとして、ロシアを必要としていると指摘された。

大茂矢由佳(筑波大学院生)の報告は、日本の難民受け入れ政策そのものの古さや問題点を指摘しつつ、ウクライナからの避難民は例外的に手厚い支援がなされているが、将来的にはそれが問題として浮上する可能性が高いことを指摘した。ウクライナからの避難民は、国際水準に合わせて「難民」としてしかるべく受け入れるべきだと、明確な主張がなされた。

 セミナー全体の尺は120分、そのうち、各報告は15分~18分程度で、残りの50分強を質疑応答とディスカッションに費やしたのは、「今起きている戦争を市民目線で考える」という本セミナーで掲げた趣旨に合致するものだったと言えるだろう。出色なことは、名外大の学生から多くの質問が寄せられたことである。今回はコロナ対策もあって、対面参加者についてはマイク回しではなく、質問シートの回収という形式を取ったが、恐らくは10通ほどの質問シートが学生から寄せられていた。ウェビナーの「Q&A」に寄せられた質問を合わせればさらに増えるだろう。質問の内容は、西側諸国の戦争への対応の話から、ロシアによる核使用の可能性をめぐる問題、食料安全保障への影響、ウクライナ戦争の東アジア・日本への影響など、多岐にわたる問題が扱われた。バラバラに出された多様な内容の質問の交通整理をし、報告者によるディスカッションを喚起してくれたのは、司会をつとめた高田喜博(JCBS)、池直美(北海道大学)による質問の捌き方に依るところが大きい。

 名古屋外大を会場とする対面セミナー開催に踏み切っていただいた、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの岩下明裕先生に感謝申し上げる。準備段階で紆余曲折があったものの、最終的にセミナーの開催が実現したことについて、名古屋外国語大学の亀山郁夫学長、恒川孝司副学長の特段のご配慮に謝意を表したい。そして、セミナー準備に奔走してくれた、名外大世界共生学科助手の宮路美樹、山本裕佳、当日ロジの実働部隊となってくれたアシスタント学生たちの頑張りに「おつかれさま」と言いたい。もちろん、司会・報告者の先生方を含め、当日、対面・オンラインどちらであってもご参加いただいた皆さまに心から御礼を申し上げる。

地田徹朗(センター共同研究員/名古屋外国語大学)

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