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2015.04.14

ABS年次大会が米ポートランドにて開催される

Association for borderlands studies (ABS)年次大会が米ポートランドにて開催される
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 2015年4月8日~11日、アメリカ西海岸オレゴン州の州都ポートランドにてAssociation for borderlands studies (ABS)の年次大会が開催された。元々、米墨・米加国境研究の学会として設立されたため、参加者の多くはアメリカ、メキシコ、カナダの研究者であるが、岩下明裕UBRJユニットリーダーが本大会より1年間会長を務めることもあり、アジア、特に日本から多くの参加があった。UBRJからは岩下の他にデイビッド・ウルフ(北大スラブ・ユーラシア研究センター)、池直美(北大公共政策大学院)、地田徹朗(北大スラブ・ユーラシア研究センター)が、科研費A「ボーダースタディーズによる国際関係研究の再構築」からは田村慶子(北九州市立大)、八谷まち子(九大)、古川浩司(中京大)、川久保文紀(中央学院大)、花松泰倫(九大)が、境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)からは実務者である大西広之(法務省)、山上博信(日本島嶼学会)が参加した。他にも、著名な北朝鮮研究者である三村光弘(環日本海経済研究所)や、若手のホープである高橋美野梨(北大スラブ・ユーラシア研究センター)、中山大将(京大)も参加した。アジアや欧米から過去4回のGCOEサマースクール参加者が数多く名を連ねたことも特筆すべきことである。なお、参加者総数は120名程度とのことである。
R0015695.JPG 前述のとおり、元々ABSが北米中心の学会であるため、ABS世界大会やBRITと比較すると米墨・米加国境に関する報告が目立ったが、日本からの参加者による報告も多くの関心を引いていた。特に、筆者がセッションを聴講した、第二次世界大戦後の樺太からの「帰国者」の間の民族をめぐる問題と帰国者(引揚者)団体との関係についての中山大将報告と、東南アジア諸国(フィリピン、インドネシア)からの女性移民労働者の「育成」を巡る問題と未熟練労働移民の受入国であるシンガポールの事情についての田村慶子報告には多くの質問とコメントが寄せられていた。田村報告は、その直前のJoni Virkkunen(東フィンランド大)による中央アジアからの労働移民のロシアの受入政策についての報告ともうまく噛み合い、越境する労働移民および移民受入政策の国際比較の可能性を大いに感じさせるものだった。それ以外の報告で印象に残っているのは、本文の筆者自身がコメンテーターを務めたセッションのWillie Aziegbe Eselebor(ナイジェリア・イバダン大)による、ナイジェリア=ベナン国境を題材としたマルチスケールでの国境管理のあり方についての報告である。ナイジェリアのコントロールされている国境ポストは84に過ぎないが、コントロールされていない越境地点は1400以上を数え、砂漠や熱帯雨林など多様な景観をみせる西アフリカの国境管理の難しさを感じさせると共に、アフリカ連合(AU)から西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、ナイジェリア国家からローカルなレベルまで、国境管理をめぐって様々なスケールでの政策や構想があることも分かった。日本ではあまり聞く機会がない、ナイジェリアの本国者による報告は新鮮だった。筆者個人の報告については、中央ユーラシアの環境と境界をめぐる問題について報告したが、どのように米国西海岸でこのような報告を受け止めてもらうべきか、事前の作戦立ての必要性という大きな課題が残った。それでも、米墨・米加国境の諸問題について、ABS年次大会ほど知る機会がある場は他にはないだろう。アジアを代表する我々にとって、ABS年次大会は貴重な学びの場でもある。
R0015673.JPG なお、初日のランチョンでは、今般、岩波書店より刊行された『境界から世界をみる:ボーダースタディーズ入門』の英語原著者であるAlexsander Diener(米・カンザス大)によるスピーチと、訳者である川久保文紀によるコメントという形式での特別セッションが催された。そして、2日目のレセプションでは、昨年のBook Awardを受賞したBeyond Walls and Cages (University of Georgia Press刊)の編者であるAndrew Burrige(英・エクセター大)らがキーノートスピーチを行った。また、今大会のBest Paper AwardはDhananjay Tripathi(インド・南アジア大)が受賞した。Burrige氏は2010年度の、Tripathi氏は2011年度のGCOEサマースクール参加者である。
 最後に、ABS理事会にて、ABSの日本チャプターを北大・UBRJと九大アジア太平洋未来センターとの共同で今後設置することが承認されました。また、来年の2月には、過去に筑波大学で教鞭をとっていたAlexsander Bukh(ウェリントン・ヴィクトリア大)を中心に、ABSのアジア太平洋アウトリーチ会議を開催する構想もあります。今後のABSの日本・アジア地域での展開にどうぞご期待ください。(文責:地田 徹朗