Eurasia Unit for Border Research (Japan)

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2017.11.20

【開催レポート】境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)対馬セミナー開催される

 

 20171111日(土)、対馬市交流センターにて、境界地域研究ネットワークJAPANJIBSN)対馬セミナーが開催された。セミナーの前にはJIBSNの年次全体集会も開催され、JIBSNの活動報告と今後の活動方針・計画について審議された。

 セミナーは「変貌するボーダー/境界地域:観光と人口問題を考える」と題し、2つのセッションで、UBRJ並びにJIBSNがここ数年重点的に取り組んでいるボーダーツーリズム(国境観光)と、過疎化が進行する国境地域の人口問題について議論された。また、本セミナーは、UBRJJIBSNや九州大学アジア・太平洋未来研究センター(CAFS)、NPO法人国境地域研究センター(JCBS)が協力し、ビッグホリデーが企画をした「対馬釜山・国境観光ツアー5日間」のプログラムにも組み込まれた。ツアー参加者含めJIBSN関係者60名、対馬市民など一般参加者が29名と、当初予定していた会場スペースを拡大せねばならないほどの盛況ぶりだった。(以下、登壇者の敬称は省略する。)

 セミナー開会にあたり、野口市太郎(JIBSN代表幹事、五島市長)、小野徹(礼文町長)、水野正幸(JR九州高速船株式会社代表取締役社長)、伊豆芳人(ボーダーツーリズム推進協議会・会長)が挨拶をし、鈴木貴子(衆議院議員)からの祝電が読み上げられた。

 セッション1は「進化するボーダーツーリズム」と題し、ローカルジャーナリストの田中輝美による司会の下、礼文町(今野直樹・産業課)、稚内市(渡辺公仁人・建設産業部サハリン対策監)、五島市(樋口貴彦・総務企画部政策企画課)、竹富町(大浜知司・政策調整監)、対馬市(内山歩・まちづくり推進部政策推進課)の各自治体の代表が、観光振興策の現在と将来像について紹介した。各報告は必ずしもボーダーツーリズムと結びついているわけではないが、日本人向けの、日帰りや素通りではない滞在型の観光商品をいかにして生み出してゆくのかが今後の共通の課題であるということが分かった。その後、本年発足したボーダーツーリズム推進協議会を代表して、かつて沖縄や北海道でのツーリズムのムーブメントを仕掛けて成功に導いた旅行企画のプロ中のプロである伊豆芳人が、協議会の今後、ボーダーツーリズムの今後について報告した。ゲートウェイとしての国境という素材からどうストーリー作りをし、コンテンツを充実させ、商品化させるか。もう日本の隅々まで外国人観光客が知り尽くしている状況で、インバウンドよりも、どう日本人の心に響くコンテンツに結びつけられるのか、JIBSNの参加団体が拡大していく中で、さらに議論や協働が必要であるとの印象をもった。国境観光の取り組みから始まって4年、ボーダーツーリズムの一般化・大衆化という点ではまだスタートラインである。同時に、同じ課題を抱えている自治体、学術的関心をもっている研究者が一堂に会して考えることに間違いなく意味があると感じた。セッション内では、今般採択された有人国境離島振興特別措置法を観光振興にも使えるようにできないか、また、根室市や稚内市などこの法律での補助から漏れる自治体の対策など課題も浮き彫りにされた。個人的には対馬への韓国からの観光客が年間30万人を超えているのに、サハリンからの稚内への入境者数は600人台だということに驚いた。
 セッション2は「境界地域の人口問題を考える」。花松泰倫(九州大学)の司会で進行し、根室市(織田敏史・北方領土対策参事)、標津町(山口将吾・副町長)、与那国町(小嶺長典・総務財政課)の自治体の方が登壇。小笠原村と隠岐の島町の実態については古川浩司(中京大学)が報告を代読した。全体として、各自治体とも日本全体の人口が減少してゆく中で、ある程度の人口減少は避けられなくなっているが、どこで食い止めることを目標とするのか、そのためにどのような対策を行っているのかが報告の中心であった。小笠原村は若者を中心とする外部者の移住によって人口が微増している、逆に与那国町は島内に高校がないため若者は15歳で一旦島を離れてしまい、彼らにどのように島に戻ってきてもらうかが課題など、国境自治体ごとの人口問題の特徴があることも分かった。対馬の旧上県町志多留集落に住みこんで体験型ツーリズムに取り組んでいる川口幹子(一般社団法人MIT・代表)の報告は、リアルな対馬の生活の実態や、「よそ者」の若者が限界集落問題に関与する可能性のようなものが垣間見えて興味深かった。花松による、そもそも人口減少は当たり前、子育て・就労支援は当たり前の地方の市町村において、町がなくなるということも想定して行政の今後を考えているのかという挑発的な質問、人口問題における国境地域の特殊性やその解決に向けた突破口における優位性、移住する上での特有の「魅力」のようなものはあるのかという質問は、登壇者・参加者のブレインストーミングを喚起するものだった。国境地域だからこそ、日本全国で進行する(あるいは悪化してゆく)問題・課題に対して特徴ある答えや対策を見出す、そのために頭をひねってゆく必要性を感じた。JIBSNはそのための場でもある。
全体討論では、岩下明裕(UBRJユニット代表、北海道大学/九州大学)のモデレートの下で多くの意見・コメントが聴取された。一般の対馬市民の方から、韓国人観光客が大挙してやって来る中での、対馬の生活や社会の変化について生の感覚を語る発言があり、これもとても学びがあった。JIBSNとしてのセミナーは年に1度だけだが、日本の国境地域の実態と年々の変化について把握し、それを相対化する上で極めて重要な場である。実務家だけでなく研究者が参加する意義も非常に大きい。来年は五島市での開催である。五島・済州チャーター便を利用したボーダーツーズムの実施も計画中とのことである。今後のJIBSNの活動、ボーダーツーリズム推進協議会の活動とその発展に期待したいと思う。

 

文責:地田徹朗(名古屋外国語大学)